今回は特別企画として、一般社団法人健康マネジメント協会の管理栄養士である佐藤恵美子先生に、ドライバーの健康管理についてお話を伺い、その内容を記事にして紹介いたします。
トラバスの代表理事である阪本がお話を伺いました。
健康起因事故は増加している
トラバス代表理事阪本(以下「阪本」): 本日はよろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。
健康マネジメント協会佐藤様(以下「佐藤」): 一般社団法人健康マネジメント協会の管理栄養士佐藤といいます。よろしくお願いします。
私どもは、事業用自動車のドライバーの悲惨な健康起因事故を撲滅するため、ドライバーの生活環境を理解したうえで一人ひとりの健康状態に見合った生活習慣改善を指導しております。
阪本: ドライバーさんの健康に起因する事故は増えているんですか?
佐藤: 国土交通省によれば事業用自動車の健康起因事故件数は平成15年には51件だったところ、平成28年にはその6倍の304件に達しました。
そのうち人身事故は15件ですが運転中に意識障害等により運転操作が不能になったものは88件もあり右肩上がりに増えています。
88件の運転操作不能案件のうち、脳疾患31件、心臓疾患18件を占め、ここには「ドライバーの高齢化」という問題も顕著に表れていると思います。
今の若い方々は運転免許を取らない方が多いと聞きますので、今いるドライバーが高齢になっても長く運転して頂くために健康でいることは重要だと思います。
健康チェックがますます重要に
阪本: 企業にとってもドライバーさんの健康管理が大切になってきますね。
佐藤: そうですね。ひとたび健康起因事故が発生すれば、企業は間違いなく厳しい責任を問われます。
ドライバーの疾病により運転を継続できなくなった事案が増加傾向であることから、平成28年12月には、事業用自動車の運転者が疾病により安全な運転ができないおそれがある状態での運転を防止するために必要な医学的知見に基づく措置を講じることが法律上義務付けられました。
こうした状況を受け、国土交通省では平成30年2月の「自動車運送事業者における脳血管疾患対策ガイドライン」の策定に続き、先日には自動車運送事業者が知っておくべき内容や取り組む際の手順等を具体的に示した「心臓疾患・大血管疾患対策ガイドライン」を策定しました。
つまり事業者は、運転者が安全運転のリスクとなり得る病気でないかを常時調べ、予防や治療といった対策を講じる必要があり、健康状態のチェックがますます重要になりました。
BMIの高いドライバーが多い
阪本: やはりドライバーさんの健康リスクは高いのですか?
佐藤: 厚生労働省が発表した「過労死等の労災補償状況」によれば、脳や心臓疾患に関する事案で最も多いのは残念ながら毎年運輸業・郵便業です。
これまでに多くのドライバーの方の健康診断結果を見てきましたが、圧倒的にBMI25以上の肥満者が多いことが特徴です。
基準値がBMI22でこれが統計的に最も病気にかかりにくい体重なのですが、その基準値からするとドライバーの方はBMIが高い傾向にあります。
特に、ぽっこりお腹の内臓脂肪型肥満であるメタボリックシンドロームが非常に多いです。
しかも周囲のドライバーの方もBMIが高いためにご自身の肥満に気付いていない方が大半です。
メタボリックシンドロームは腹囲の基準に加えて、おもに内臓脂肪に由来する悪影響を受け、体内で健康上の問題が始まっている状態を指しています。この状態が長く続くと動脈硬化を招き血管自体が傷つきやすくなってしまいます。
また脳梗塞や、脳出血、心筋梗塞といった、命に関わる病気にもつながるリスクが高くなります。
事故を起こしたら社会的な影響力が大きいドライバーの方々は、プロとして生活習慣病のリスクを減らし改善しなければなりません。
それには、お腹まわりの肥満を解消すると病気のリスクも減り、各種、検査結果の数値も改善されることが多いです。
大切なのはやはり「腹八分目」
阪本: 肥満の原因として多いものは何ですか?
佐藤: 太る理由の、最も大きな原因は、やっぱり食べすぎです。食べ過ぎないように、心掛けることこそ、太らないからだ作りの王道といえます。
「腹八分目」で大切なのは「よく嚙むこと」です。満腹感が生じるのは食べ始めてから20分後です。よく嚙まずに早食いになってしまう人は満腹中枢が働く前に食べ終わっているので物足りずに必要量以上に食べてしまう傾向があります。
1口につき出来れば20回、最低でも10回は嚙むように意識するようにアドバイスしています。
麺類やファストフードなどは2~3回嚙むだけで飲みこんでしまうという人もいますが良く嚙むために嚙み応えのある食事、例えば根菜類や玄米などを選ぶことも大事です。
また私たちの舌の表面はデコボコしています。
食べ物を咀嚼して噛み砕くほど舌のデコボコの隙間に味が入り込み舌の部位別に存在している味蕾(ミライ)と呼ばれる器官に触れて、薄味でも満足感を得やすくなります。
これは高血圧症予防にも大事なことです。
食べる順番もポイントです
阪本: ドライバーさんは食事にあまり時間が取れないことも多く、早食いの方が多いですよね。
佐藤: 早食いの方は要注意ですね。
また、太らない食べ方では食べる順番を工夫することもポイントです。まず野菜類など食物繊維を摂ることでそのあとに入ってくる糖や脂質の吸収を抑えることが出来ます。
味噌汁やスープなどの汁物も野菜類と同じように先に飲むことでお腹に溜まりやすく満腹感を得やすくなります。
次に肉や魚などのたんぱく質を摂り、最後にご飯などの主食となる炭水化物をとるようにします。炭水化物をとるころには徐々に満腹感が高まりつつあるはずなので、食べる量を減らせる可能性が高く体に脂肪を溜め込みにくくなります。
また「アルコール」「甘いもの」「あぶら物」の3つの「ア」がつくものにも注意が必要です。
この3つを同時にとってしまうと、結果的に高カロリーになりやすく、肥満を招く原因になります。
阪本: おいしそうなものばかりですね(笑)
佐藤: そうなんです(笑)
だからといって全てを我慢しなければならないというわけではありません。
アルコールを飲むなら脂っこい揚げ物は控えて、刺身にする。甘いデザートを食べる日ならビールは飲まないようにするといった具合です。
3日で「アのつくもの」はひとつだけに絞って、実践すると健康状態が改善してきます。
中年になるとライフスタイルが多様化する
阪本: 若い頃と同じような食生活を続けてはいられないということですね。
佐藤: 加齢による代謝などの衰えもありますし、中年といえば、人によりライフスタイルが多様化する年代です。
1人暮らしの場合、若い頃に比べれば比較的金銭的にゆとりがあり外食やお菓子やお酒を自由に買ったりすることが出来てしまいます。
あるいは独身の男性で親と同居している場合、母親にとってはいくつになっても息子はかわいいので「たくさん食べなさい」とばかりに、若いころと変わらず多くの品数の豊富なメニューが提供されやすいです。
食べ盛りの子供がいる家族であれば、トンカツやカラアゲといった脂っこいメニューが食卓を彩ります。
部活動をやっている子供よりも運動量ははるかに少ないのに夜遅く帰ってきたお父さんのお皿には余ったおかずが大盛りに追加され「最後はパパ」になっている家庭も少なくないです。
家族には自分が生活習慣病なのだと理解してもらい治療のためにダイエットが必要だという認識を持ってもらうことが必要となります。
生活習慣病は、痛くもかゆくもないのに突然心臓がとまったり脳に異常がでたりする恐ろしい病気です。とにかく治療を始めるのは早ければ早いほど良いということを大切なご家族にお伝えいただいております。
食事の色を信号の色に
阪本: 家族の協力も不可欠なんですね。
佐藤: ドライバーの方の食事は、ラーメンやパン、牛丼など手早く食べることの出来るものが多いです。炭水化物に偏りがちなのも特徴です。
単に食べる量を減らすだけでなく、やっぱり栄養バランスも大事です。
難しい栄養素の知識でなくおもにエネルギー源となるご飯などの炭水化物は黄色。肉や魚、卵、豆腐などのたんぱく質は赤。野菜や海藻などのビタミン、ミネラルは緑。この信号の色と一緒の3つの色を揃えるように心掛けましょうと伝えています。
三食が揃っていればだいたい栄養バランスが整っていると言えます。例えば牛丼にサラダを加える、トマトジュースを飲むなどです。
飲み物は液体なのであまり意識しない方が多いですが、ジュースやスポーツドリンク、コーヒーなどは砂糖の量がびっくりするほど多いです。これをお茶に変えただけで4kg減量し中性脂肪値が激減した方もいらっしゃいました。
お一人お一人、改善する点や生活環境など異なりますので「その人が出来ること」の提案をさせていただいております。
阪本: ドライバーさんご自身の命を守るためにも健康が大切ですね。
色々なお話を聞かせていただきありがとうございました。
佐藤: ありがとうございました。
トラック・貸切バスの運行を行われている運送事業者さんにとって、ドライバーさんの健康管理は、安全運行をする上で重要であることを認識されている事業者さんは増えてきているかと思います。
とはいえ、具体的に、どのような方法でドライバーさんの健康管理を行ってよいのか迷われているのではないでしょうか。
今回対談させていただきました管理栄養士の佐藤先生が所属している一般社団法人健康マネジメント協会さんでは、「管理栄養士により個別指導」「社内研修の開催」「個人別健康管理ノートの発行」といった健康改善サービスを提供されています。
自社ではここまで手厚くドライバーさんの健康管理をすることは現実的に難しいと思いますので、外部の専門家のアドバイスを受けながら、ドライバーさんの健康管理を行われることを検討されてみてはいかがでしょうか。
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トラバス代表理事。行政書士開業後、個人事務所時代から一貫して、運輸と観光分野に関する専門家として、数多くのトラック運送会社、貸切バス事業者、倉庫業者の許認可法務に関与してきた経験を持つ。
現在も行政書士法人シグマの代表行政書士として、行政書士法人を経営しながら、運輸業と観光法務の実務家として活動中。
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)賛助会員(認定アドバイザー)