今般,道路交通法施行規則が改正され,本年4月1日から施行されました。いままで緑ナンバーについてのみ点呼義務として課されていたアルコールチェックの義務や記録の保存義務が,白ナンバーの車両を一定の台数運行させる事業者にも課されることとなりました。
ただし,実際の運用については依然として不明点が多いところですので,ここで少し注釈いたします。
文言上の明確な例外のない部分は,運用の相場観が定まるまでの様子見の段階では,多少困難でも全く履行しないというわけにはいかず,慎重な対応が必要と思われます。
他方で,本来厳格な緑ナンバーの車両の点呼においてさえも,いくつかの例外措置は認められています。これをふまえて,よく寄せられる疑問点を4つほど 挙げて検討します。
Q.1 時間外の運行でも,安全運転管理者は対応する必要はありますか?
⇒ 方法の問題はありますが,対応自体はする必要があると思われます。
大変だとは思いますが,そのような時間外業務が発生する場合には,対応する当番を決めておく必要があります。
単にその事業者の営業時間外に発車するというのみの理由で,アルコールチェックの対応が必要なくなるということはないものと考えます。しかし,早朝深夜においてもわざわざ営業所を開けてアルコールチェックを行わなければならないとするのは合理的ではありません。
この場合,オンラインや電話での対応は可能で,必ずしも営業所で行わなければならないわけではないと解されます。
緑ナンバーでも遠隔での実施が可能な場合がありますが,これと同様に,遠隔での実施は可能と考えられます。ただし,このような遠隔による点呼を実施する場合,電話よりも情報量が多いテレビ電話の使用がより望ましいところです。
ただ,実際問題として,たとえば
従業員が帰宅後に,業務上の必要が生じて車両を深夜に発進させる
といった場合,仮に電話やオンラインであったとしても,会社側で毎回把握してから発車させるような体制をとることはかなり困難であると思われ,これに対応するとなると労働法上の問題も生じるため,このあたりがどのように緩和されるのかは,今後の運用を待ちたいところです。
Q.2 安全運転管理者が不在、また副安全管理者も不在時の確認はどうすればよいのでしょうか?
⇒ 確認を担当する者の代わりに確認業務ができる体制を整えていただく必要があります。
ご存じのとおり,緑ナンバーの車両では,運行管理者資格のある者を運行管理者として選任することが義務づけられていますが,実際の業務は一定程度その補助者(基礎講習を修了した者)に業務を行わせることができます。
白ナンバーの場合においても,安全運転管理者以外の者にアルコールチェックの業務を行わせることは禁止されないものと解されます。ただし,実施の責任は安全運転管理者に帰属します。
以上から,安全運転管理者以外の者に確認業務を行わせることは可能と考えられます。ただ,普段,通常業務しか行っていない従業員に安全管理業務を突然行わせることは困難と思われますので,社内全体でマニュアル化し共有しておくことが重要となってくるでしょう。
Q.3 安全運転管理者に選任できるのは従業員のみですか?あるいは,業務委託契約者も選任できるのでしょうか?
⇒ 従業員のみならず業務委託契約者も選任できると解されます。
道路交通法は安全運転管理者の選任を義務づけるのみであり,同施行規則はその欠格事由を定めていますが,そこには,雇用される者でないことは挙げられておりません。
また,参考として,緑ナンバーの場合でも,運転者と異なり運行管理者については,従業員(定期雇用される者)でなくてはならないという規定はありません。
以上から,白ナンバーにおける安全運転管理者についても,業務委託契約者を選任できるものと考えられます。
Q.4 通勤のみに利用されているマイカーを管理する場合も、安全運転管理者の選任は必要ですか?また、マイカーを業務に利用している場合はどうなるのですか?
⇒ 通勤のみに使用しているマイカーについては本件規制の対象外です。他方,マイカーであっても業務上で利用している場合,本件規制は適用されます。
つまり,名義に関係なく,業務に使用するのであれば,事業者によるアルコールチェック等の確認の必要性の趣旨は,事業者の所有車両と同様に妥当するためです。
なお,この点は,「業務に使用せず,個人が所有・管理しており通勤のみに使用している 自動車であれば、台数の算定に含みません。 ただし、業務に使用する場合は、自動車の名義に関係なく,台数の算定に 含める必要があります。」と山形県庁HPのQ&Aには明記があり,上記の趣旨によるものと思われます。
以上,手探りにはなりますが,私なりの考察を述べさせて頂きました。少しでも,皆様の参考になりましたら幸いです。
参考資料(一部)
・警察庁HP「安全運転管理者の業務の拡充」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/index-2.html
・道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令等の施行に伴う安全運転管理者の業務の拡充について【通達】
クリックして20211110tuutatu.pdfにアクセス
(↑ これが現在公式に発表されている中では最も詳しい資料となります。)
・警視庁HP「安全運転管理者等に関するよくある質問」
・山形県庁HP「安全運転管理者等に関するよくある質問」
クリックしてr2yokuarusitumon_1.pdfにアクセス
・18訂版 執務資料 道路交通法解説/東京法令出版
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平成25年1月に弁護士登録し、以後、横浜市内の法律事務所で約7年間勤務。令和元年の末に川崎武蔵小杉法律事務所を開業し、同所代表となる。
交通事故関連事件を多く手掛けてきたことから、運輸業のお客様と関わる機会に恵まれ、運輸業界の実態については他の弁護士以上に把握していると自負している。また、運輸業の方からは、交通事故以外にも労務相談、契約に関するご相談、さらには、新規事業に関するリーガルチェックにも力を入れている。
その他、セミナー講師や原稿執筆の経験多数。