最近、運転者の意識喪失による健康起因事故が相次いで発生しています。
交通事故に結びつきやすい健康リスクはいくつかありますが、脳・心臓疾患発症の要因としては高血圧があげられます。
運転中の血圧の変化については、例えば時速30~40km程度の安全運転時でも、平均すると最高血圧が25mmHg上がり、時速60~80kmでスラローム運転をすると、最高血圧が平均で43mmHgも上昇するという報告がみられます。
日ごろから高血圧の人はもちろん、正常血圧の人でも運転時には高血圧状態になりやすくなることがわかります。
また運転時のヒヤリ体験、長時間運転、気温の変化でも血圧は上昇します。
「出発前の点呼でも体調に異常はなく、労働時間は規定範囲内だった。健康診断でも異常はなかった」としても、血圧の高い方は、運転が大きなストレスを生じさせる業務であると認識し、運転中の血圧の急上昇が、さまざまな発作の引き金になる危険を意識しなければなりません。
国土交通省は自動車運送事業者に対して、法令に基づく運転者の健康診断の実施を始めとした運転者に対する健康管理を適切に行うため下記健康管理マニュアル等を策定し、運転者の健康起因事故防止のための取組を行うことを推奨しています。
- 「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」(平成22年7月策定、平成26年4月改訂)
- 「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」(平成15年6月策定、平成19年6月及び平成27年8月改訂)
- 「自動車運送事業者における脳血管疾患対策ガイドライン」(平成30年2月策定)
参照URL:国土交通省 事業用自動車の安全対策 健康管理関係マニュアル
また各関係団体では、過労死や健康起因事故につながる、脳・心臓疾患発症の要因になる高血圧の予防として血圧測定が重要とし、乗務前点呼時の血圧測定も推進しています。
高血圧の予防
高血圧とは・・・安静状態での血圧が慢性的に正常値よりも高い状態をいいます。
高血圧になると血管に常に負担がかかるため、血管の内壁が傷ついたり、柔軟性がなくなって固くなったりして動脈硬化を起こしやすくなります。
高血圧を放置していると・・・動脈硬化を促進し、脳卒中や心疾患、慢性腎臓病などの重大な病気につながります。
最近の研究から、脳卒中は男女を問わず高血圧の影響が大きいことが明確になっています。
高血圧を予防するには血圧を上げない生活習慣を身につけることが重要です。
- 塩分の摂取量に注意しましょう・・・塩分1日6g未満
- カリウムの摂取を積極的に心がけましょう・・・カリウムには血圧を下げる働きがあります。(牛乳・魚・納豆・りんご・バナナ・ほうれん草)但しカロリー摂取オーバーにならないように気をつけましょう。
- 太り気味の人は体重を減らすことが大切です・・・やせると血圧が下がることは明らかにされています。体を動かし運動量を増やし、摂取カロリーを減らして減量することが必要です。
- 日常生活の中でも体を動かしましょう・・・運動すると体内ホルモンや血液量、交感神経系の働きなどが血圧を下げるように変化します。
- 節酒を心がけましょう・・・習慣的な飲酒は血圧をあげると言われています。
- 禁煙しましょう・・・喫煙は交感神経系を興奮させるため血圧が上がります。
- ストレスを解消しましょう・・・慢性的なストレスは高血圧との関係性が深いとされています。
高血圧は放置していると怖い病気ですが、その一方で自覚しやすい病気ともいえます、症状がなくとも健康診断や家庭・職場の血圧測定によって、判断が可能と考えられます。
血圧が高めとわかったら早めに受診し、治療を要する高血圧なのか、原因は何なのかについて知ることが大切です。
トラック協会では、運行管理者が点呼時に運転者の血圧値を正しく測る方法や測定された血圧値の評価法について解説したパンフレットを作成し活用を呼びかけています。
血圧値を正しく測る方法
血圧は1日の中でも変化します。測る環境によっても値が変わるので、定刻定位置で測ることで身体の異常を見つけられる可能性があります。
- 静かな環境でリラックスして測定(室温約20℃)
- 体を動かさない・・・背もたれのある椅子に座り、腕が心臓の高さにくるようにしましょう。
- 会話をしない・・・騒がしい環境では騒音がストレスになり正しく測定ができません。
測定手順
- 腕を締め付けない服装で測定
- 腹部のベルトはきつくないように必要があれば緩める
- 腕の力を抜いて、深呼吸を2回して測定
- 測定中は腕や体を動かさず、会話をしないようにして測定に集中する
血圧値の評価法
測定1回目が上140未満、下90未満→→乗務できます。(但し毎日の血圧管理が重要です)
上記以外は5分空けて再測定
- 測定2回目が上140未満、下90未満→→乗務できます。
- 測定2回目のうち低いほうが上160未満、下100未満であり上140以上または下90以上
→→数日続いていなければ乗務できます。
→→数日続いていれば条件付きで乗務ができる状態です。後日医療機関を受診しましょう。
- 測定2回目のうち低いほうが上180未満、下110未満
→→それ以上の場合は勤務禁止措置を講じる必要があります。すぐに医療機関を受診してください。
→→「医療機関に受診していない」「治療中で薬を飲み忘れた」「睡眠5時間以下」のいずれか
あてはまる場合→→「めまい」「頭痛」「動悸」「息切れ」「脈の乱れ」のいずれかがあり2つ以上あてはまる場合は勤務禁止措置を講じる必要があります。すぐに医療機関を受診してください。
あてはまらない場合→→条件付きで乗務ができる状態です。後日医療機関を受診しましょう。
血圧値は日々継続して計測し、記録をつけて数値の推移がわかるようにしておきましょう。
数日の平均値から体調や生活リズムを振り返ることも大切です。
また、上記基準は絶対的なものではなく最低基準であると理解し、疾病の有無や定期健康診断の結果を考慮し、主治医、会社、運転者による充分な話し合いのもとで活用することが重要です。
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トラバス代表理事。行政書士開業後、個人事務所時代から一貫して、運輸と観光分野に関する専門家として、数多くのトラック運送会社、貸切バス事業者、倉庫業者の許認可法務に関与してきた経験を持つ。
現在も行政書士法人シグマの代表行政書士として、行政書士法人を経営しながら、運輸業と観光法務の実務家として活動中。
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)賛助会員(認定アドバイザー)