行政書士の阪本です。
国土交通省は、トラック運送事業者・貸切バス事業者への監査方針を明文化しています。
その監査方針では、事業用自動車の運転者が悪質違反を引き起こしたり、引き起こしたと疑われる場合は、監査対象事業者として一般監査や特別監査を実施すると規定されています。
あおり運転が監査の端緒に
悪質な運転の具体的な内容は監査方針の中で具体的に示されているのですが、今回の監査方針の一部改正により、その悪質な運転の中にあおり運転が含まれることになりました(2020年11月27日から)。
監査方針に規定されている悪質な運転
- 救護義務違反(ひき逃げ)
- 酒酔い運転
- 薬物等使用運転
- 妨害運転
- 無免許運転
- 酒気帯び運転
- 過労運転
- 無資格運転
- 無車検運行
- 無保険運行
あおり運転は上から4つ目の妨害運転に含まれます。
あおり運転が、国土交通省(運輸局)が監査を実施するきっかけになった理由は、道路交通法の一部改正によって妨害運転罪が創設され、あおり運転に対する罰則が規定されたからです。
危険!「あおり運転」はやめましょう(警察庁)
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/aori.html
「妨害運転」は、犯罪です!!(神奈川県警察)
事業用自動車であおり運転を行った運転者は、道路交通法違反として、次の罰則を受けることになります。
- 3~5年以下の懲役または50~100万円以下の罰金
- 運転免許取り消し
あおり運転を行った運転者は上記の罰則を科せられますが、その運転者が所属している事業者に対しては、国土交通省の監査が実施されることになります。
あおり運転が運行管理者資格者証の返納のきっかけにも
運転者が事業用自動車であおり運転を行った場合、事業者に監査が入るきっかけになるだけでなく、運行管理者に対する処分として、運行管理者資格者証の返納命令を受けることになってしまいます。
返納命令処分を受けた運行管理者資格者は、返納命令処分日から5年を経過しなければ、新たに運行管理者資格者証の交付を受けることができません。
もし、運行管理者資格者証を保有している方がその営業所に1名しかいない場合、選任可能な運行管理者不在になってしまうため、別の資格者が見つからない場合は、事業が継続できなくなってしまいます。
まとめると、事業用自動車の運転者があおり運転を行うことで、次のような不利益を受けることになります。
- 運転者:3~5年以下の懲役または50~100万円以下の罰金、更に運転免許取り消し
- 事業者:監査の対象事業者に
- 運行管理者:運行管理者資格者証の返納命令
あおり運転を防ぐためには
あおり運転者が社会問題になってから、日々の乗務前点呼の際に、運転者に対して、適正な車間距離の確保や道路状況等に適応した安全速度の遵守などの安全運行に対する指示を行われている事業者様も多いのではないでしょうか。
また、運転者への安全教育の中で、以下の内容を伝えられている事業者様もいらっしゃるでしょう。
- トラックやバスは大きい車体であるがゆえ強者意識が募りやすいので、幅寄せ、あおりなどの威圧的な運転や嫌がらせの運転はせず、強いからこそ相手の立場に立った思いやりのある運転が求められること
- 急ぎやあせりの気持ちが心理を支配すると、スピードの出しすぎ、強引な車線変更、一時停止の無視などの危険な運転をしがちとなること
- 急ぎやあせりの気持ちから前方の車の動きを遅いと感じ、交通の流れに対する配慮を失うこともあり、こうした気持ちのあせりが事故につながること
- 興奮している状態では、的確な判断力が低下し、強引な運転をしがちになること
- 交通ルールを遵守して安全運行をすること
とはいえ、トラックやバスは、乗用車と比較すると、車両の構造上、運転者がどんなに気を付けて運転していても、あおり運転の疑いをかけられることがあります。
一度、あおり運転の疑いをかけられてしまうと、運転者の証言だけでは、その疑いを晴らすのはなかなか難しいです。
あおり運転の疑いをかけられたときに運転者・事業者を守るのがドライブレコーダーの映像です。ドライブレコーダーの映像を確認することで、事実の確認を正確に行うができます。
また、ドライブレコーダーは、運転者の日々の運転に対する指導を正確に行うことに有用です。
ドライブレコーダーの映像は、事故発生の際にだけ確認するという事業者もいらっしゃいますが、事故が発生していない時も確認して、車間距離が短い運転者がいたら、運転者と一緒に映像を確認しながら指導されることをおすすめいたします。
そして、運転者へ指導を行ったら、必ず教育記録簿を作成して、営業所内で3年間保存してください。
教育記録簿で会社を守ることが可能に
運転者へ実際に指導を行ったにも関わらず、教育記録簿を作成しない運送事業者が散見されます。確かに、教育記録簿の作成は手間がかかる事務作業です。でも、その教育記録簿が、7日間の事業停止の行政処分を防げるとしたら、教育記録簿を作成して保存するメリットがあると思いませんか?
事業用自動車であおり運転が原因で重大事故等を引き起こしたとして都道府県公安委員会から国土交通省へ通知され、それがきっかけで監査が実施された場合、事業者が運転者に対して、あおり運転に対する指導・監督が不適切だと処分日車数による行政処分に加えて、7日間の事業停止の行政処分を受けることになってしまいます。
しかしながら、あおり運転防止に関して、事業者が運転者に指導・監督を実施し、それを記録を残すことで、公安委員会からの通知がきっかけで監査が行われても、事業停止を回避することができる場合があります。
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トラバス代表理事。行政書士開業後、個人事務所時代から一貫して、運輸と観光分野に関する専門家として、数多くのトラック運送会社、貸切バス事業者、倉庫業者の許認可法務に関与してきた経験を持つ。
現在も行政書士法人シグマの代表行政書士として、行政書士法人を経営しながら、運輸業と観光法務の実務家として活動中。
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)賛助会員(認定アドバイザー)