休車損害とは
ご存知の通り、休車損害とは、車両が事故によって利用できなくなった場合に、その間、車両を利用できないことによって生じた損害をいいます。
弁護士として交通事故案件を扱っていると、どういうわけか休車損害は本当によく争いになるのです。
まれに金額が高額になる事案もあるにはあるのですが、それほど高額事案でない場合でも、なぜか相手方保険会社から一種の執念をもって争われる紛争類型です。
このため、あらかじめ一定の資料をそろえておかないと、保険会社の渋い支払い提示に対して抵抗できず、泣く泣く示談せざるを得ないという憂き目に遭いかねません。
そこで、今回は、運送会社の皆様のために、休車損害を回収するためにどうしたらいいのかについて概説したいと思います。
休車損害が認められる要件
- 営業用車両であること
- 遊休車の不存在
- 代車を利用していないこと
まず、1については当然です。業務用として利用され、何らかの利益を生み出している車両でなければそもそも休車損害は生じません。
さらに、3についても、事故車両の代わりに代車を使用したなら損害は発生しませんから、当然ですね。
そこで、もっとも問題となるのが、2についてです。
裁判でもよく争われているのを見かけます。遊休車というのは、つまりその業務に使える他の車がある場合、その車のことをいいます。
もし他に余っている車があれば損害は発生しないから、ということです。もちろん、別の車を事故車の業務に当てたらその別の車がやるべき業務ができなくなるような場合は、遊休車とは言いません。
ところで、「遊休車がないこと」については、被害者側(請求していく側)にその立証責任があるとするのが、通説・実務です。
これは、不存在を証明しろというのですから、いわゆる悪魔の証明(悪魔が「いる」ことを証明するには、1匹見つければいいですが、「いない」ことを証明するには全宇宙を探しても悪魔がいなかったことを証明しないといけないので、何かが「ない」ことの証明は不可能であることの比喩です。)なのですが、一応の立証に成功すれば遊休車の不存在は認められるので、あきらめてはいけません。
それではどのようなことから遊休車がないと主張していくかといいますと、
- 保有車両の稼働率
- 保有台数と運転手の数との関係
- 運転手の勤務体制
- 営業所の配置及び配車数
- 仕事の受注体制の諸事情
を総合考慮し、被害者が休車期間中、遊休車を活用することにより休車損害の発生を回避し得たか否か、といったことが判例上見られている傾向にあります。
とくに、稼働率は重視されるので、ぜひとも休車損害の請求に備えて証拠資料を用意できるようにしておく必要があります。
揃えておくべき資料は、毎年7月10日が提出期限の貨物自動車運送事業実績報告書、乗務記録(運転日報)、配車表といったところでしょう。自社の車両がどのように動いているのかを把握して記録に残していないと、運行管理上の問題があるだけでなく、万が一の事故の際に休車損害が請求できないということになりかねません。
休車損害の算定方法
上記の要件を満たしている場合には、休車損害として請求できますが、金額の算定の仕方については、下記のとおりです。
【計算式】(1日あたりの売上-1日あたりの変動経費)×休車期間(日数)
1日あたりの売上は、事故前3か月の車両の売上表を参照して平均を算出してください。補充的に運送事業実績報告書に基づき計算することもあります。
1日あたりの変動経費については、燃料費、高速代など、運行しなかったことによってかえって出費を免れるものがこれにあたり、損害から差し引くこととなります(法律用語では、これを損益相殺といいます)。
この点、休車期間に対応する部分の修繕費や保険料などはどうかというと、たしかに長期にわたる場合にはそれらを損害から差し引く必要がある場合もあるかもしれませんが、それほど長期でない休車期間が生じたにすぎない場合には、そのためにその間の修繕費用等が減るとは考えられませんので、差し引く必要はないと思われます。
まとめ
このほかにも、休車損害について実務上の難しい議論は多々ありますが、まずは上記のポイントを押さえて、普段から資料をそろえておくことが肝要です。
業務資料の整え方、実際の事故の際の立証の仕方の詳細については、トラバスの各専門家にご相談ください。
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平成25年1月に弁護士登録し、以後、横浜市内の法律事務所で約7年間勤務。令和元年の末に川崎武蔵小杉法律事務所を開業し、同所代表となる。
交通事故関連事件を多く手掛けてきたことから、運輸業のお客様と関わる機会に恵まれ、運輸業界の実態については他の弁護士以上に把握していると自負している。また、運輸業の方からは、交通事故以外にも労務相談、契約に関するご相談、さらには、新規事業に関するリーガルチェックにも力を入れている。
その他、セミナー講師や原稿執筆の経験多数。