トラックに限った話ではありませんが、多数の車両が絡む追突事故に見られる類型として、「玉突きか順突か」というものがあります。
私自身もこの争点の交通紛争を何件手掛けたかわかりません。
玉突きか順突か?
これは、仮に3台(下記のABC車両)がかかわる追突事故を例にとりますと、結果として3台が損傷しているのですが、2台目の車両(B)が、自分は1台目の車両(A)にぶつかるまえに停車できたのに、そのあと3台目の車両(C)に追突されて、1台目の車両(A)にぶつかってしまったという事故(玉突き)なのか、はたまた、BはAにぶつかって止まり、そのあとさらにCから追突を受けたという事故(順突)なのか、というものです。
C車 ⇒ B車 ⇒ A車
順突事故の場合
BがAにぶつかって止まり、そのあとCがぶつかった(順突)という場合、
- AがBによって損傷しAの後部とBの前部に同時に損傷が生じ
- Cの衝突によって、Bの後部とCの前部が損傷し
- Cに押し出されたBがAに再度衝突する(ないし押し込む)ことによってさらにAの後部とBの前部の損傷が拡大する
ということが起きます。
言葉で説明するとわかりにくいですが、実際の事案になるとさらにややこしいです。Cの後ろにD・・・Eなどがいる場合には、以下同じとなります。
事故によって生じる法律関係
さて、この場合に、Bは、
1で生じたAの損傷について責任を負い
さらに
事故により突然停車したことにより2の追突が生じたことの責任を負い(Aの停車が責任を生じる態様かどうかは別途問題となります。)
さらに、
1で生じたBの損傷についても、BはCに請求することができず、2で生じたBの損傷についても、Cへの請求が制限(過失相殺)される場合があります。
損害についての主張
ここでさらに難しいのは、損害論に関する主張が出てくることです。
ややこしくなることを承知であえて記載しますが、どういうことかというと、Cからの主張として、しばしば見かけるのが、BがAに衝突したことで、A後部及びBの前部・後部が損傷し、この時点でA車もB車も経済的全損となったのだという話が出てくるのです。
つまり、Cがそれ以上発生させる損害がない、という主張です。
果たして第一衝突と第二衝突で発生した損害の程度を区別できるのか。
これは無理難題なわけですが、たしかに、この場合、Cへ請求する側であるAやBは、Cが自車に対して生じさせた損害を自ら立証しなければいけないのが原則となるので、立証責任のルールにおいて窮地に立たされることがあるのですが、詳しくはまた別の機会に解説しましょう。
玉突き事故の場合
以上の、順突事故に対して、BがAに当たる直前に停止でき、そのあとCにぶつかられてAに衝突した場合(玉突き事故)、まずCの衝突によってBの後部とCの前部が損傷し、Cに押し出されたBがAに衝突したことによってAの後部とBの前部が損傷する、ということが起きます。
細かく言えば、そのあと、さらにCが前に動いていてBに再衝突、さらにそれによってBがAに再衝突といったことが起きる場合もありますが、基本的には上記のとおりです。
この場合ですと、BはAに衝突せずに止まれていますから過失がなく、AはCに対してしか賠償請求ができず、BもまたCに対して追突の責任を追及できるということになりますから、ABCそれぞれの立場において、順突のケースとは大きな違いがあります。
このため、Bは玉突きと主張し、Cは順突と主張して争うということがよく見られるわけです。
ドライブレコーダーも万能ではない
なお、最近ではドライブレコーダーがあるから問題ないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、どうでしょうか。
仮にドライブレコーダーの映像があったとしても、2台目の車両(B)から撮った映像がなく、1台目(A)や3台目(C)の映像しかなければ、かえってもめる原因となりかねません。
どのような話になるのかというと、Cからの映像しかない場合、Bの後部の様子しかわかりませんから、BがAに衝突して止まったのか、そうでないのかは、B自体の車体が邪魔して、B前方の様子が判然としません。
この場合、しいていえば、Bの停止直前の挙動から判断することになりますが、どういう場合にどういう止まり方をするのか確実に言えないため、水掛け論となりがちです。
他方、Aの前方向きの画像しかない場合も、やはりAが停車した際の挙動や振動の状況などから判断していくことになりますが、決め手に欠けます。
結局、ドライブレコーダーによって直ちに問題が解決できるのは、Bの画像がある場合か、Aの後方向きの画像がある場合だけとなります。
後方向けのドライブレコーダーを設置している車両がすべてではないことからすると、ドライブレコーダーによってスピード解決できるのは、玉突き順突問題においては、意外に一握りの事例にすぎないということとなります。
まして、画像がない場合に解決が容易でないのは言うまでもありません。
余談ですが、ドライブレコーダーの映像があると不利と見た場合に、映像を消すよう指示するような行為は、とりわけ、当該事故で負傷者が出ているような場合には、自動車運転致死傷罪の証拠隠滅の教唆犯という重大犯罪となる可能性があります。
他方、ドライバー自身が消す行為は自身の罪証を隠滅するだけなので証拠隠滅罪には該当しませんが、万が一判明した場合には、悪質な行為として、民事裁判において非常に心証を損ないます。
いずれも、絶対にあってはならないことですので、ご注意ください。
以上、玉突き・順突の争いについて見てみました。判断が難しい事案が発生したときは、ぜひトラバスまでご相談頂ければと思います。
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平成25年1月に弁護士登録し、以後、横浜市内の法律事務所で約7年間勤務。令和元年の末に川崎武蔵小杉法律事務所を開業し、同所代表となる。
交通事故関連事件を多く手掛けてきたことから、運輸業のお客様と関わる機会に恵まれ、運輸業界の実態については他の弁護士以上に把握していると自負している。また、運輸業の方からは、交通事故以外にも労務相談、契約に関するご相談、さらには、新規事業に関するリーガルチェックにも力を入れている。
その他、セミナー講師や原稿執筆の経験多数。