交通事故で加害者に請求できる損害 ~従業員が負傷した場合~

はじめに

運送業を営む以上,事故はもちろん起こさないに越したことはありませんが,もらい事故なども含めると,やはり避けては通れない話題でしょう。

さて,事故の加害者に対して,会社は車両に関する損害(修理費,休車損害)の請求ができますが,これは別の機会に掘り下げるとして,今回は,従業員がお怪我をされた場合に,それに関してどういった請求ができることになるかということについて少し詳しく述べたいと思います。

会社からの請求について

基本的には,従業員のお怪我に関する請求はその従業員が請求権を持つこととなりますが,先に,会社が何かを請求できる可能性のあるパターンについて,少しだけ述べておきます。

加害者に保険会社がついているのであれば,あまり生じないケースですが,もし,従業員の治療費を会社が一時的に立て替えて負担するなどした場合には,直接会社から加害者に対して請求することができます。

また,従業員が働けなくなった場合に,そのことによって会社に損害が生じることはありますが,一般的には,これを請求することは難しいとされています(通常は因果関係の立証が困難と考えられます)。

なお,比較的頑丈な車両であるトラックやバスの運転者が負傷するような場合には,車体も少なからず損傷し,休車損害が生じていることが多いでしょう。

この場合に,従業員がお怪我で休業している間にも,その従業員の人件費を会社が負担している場合には,会社が加害者に請求する休車損害の中で差し引くべき変動経費に含めず,実質的に休業損害の中で請求することも考えられます。

このあたりになるとややテクニカルな議論ですので,具体的な事案でお困りでしたらご相談ください(拙稿「休車損害をどう回収するか」もご参照ください)。

従業員からの請求について

従業員の人身損害に関して,従業員から加害者に対して請求できる可能性のある主な損害項目について説明します。

治療費

当然,治療にかかった費用は加害者に対して請求できます。そして,加害者に保険会社がついている場合には,その保険会社が治療費を医療機関に対して直接支払うという運用がなされることが多いです(これは「一括対応」と呼ばれています)。

ただし,こちらの過失が大きい場合や治療内容について争いが生じているような場合には,一括対応を拒否される場合もあります。

治療期間が長引いた場合に,一定期間以後の治療費の支払いを拒否される場合もあります。このような場合に,双方の折り合いがつかなければ調停や訴訟などの手段で解決することになります。

入通院慰謝料

慰謝料については治療に要した期間に応じて算定されます。

入院を伴うか伴わないか,また,むちうち損傷かそれ以外の損傷を伴う場合かで算定基準が変わってきます。なお,保険会社は,一般的に慰謝料について独自の基準を持っており,訴訟等で認定される基準よりは一般的に低額となります。

訴訟を提起した場合や,弁護士に交渉を依頼した場合には,保険会社の基準よりも増額されることが見込まれますので,とりわけ,ご加入されている保険に弁護士の費用に関する特約を付けられている方は,加害者側保険会社の提示内容そのままで合意する前に,交通事故に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

休業損害

これは,お怪我により被害者が会社を休んだことにより,減給(賞与の減額も含む)が生じた場合に,休業した日額に応じて加害者に請求できるものです。日額は,原則として事故前3か月間の収入(額面)の平均をしたものとなります。

通常の休業のほかに,通院により有給休暇を消化することを余儀なくされた場合にも,休業をした日として請求することができるとされていますが,もともと休日であった日に通院した場合について休業損害を請求することは困難とされています。

なお,休業できる期間には通常,加害者側保険会社が症状等に応じて制限を課してくる場合が多いので,それを超えて休業損害を請求する場合には,保険会社と協議をすることとなります。このあたりも根拠付けや先例との比較等,技術的な要素が絡んでまいります。

後遺障害に関する請求

損害保険料率算出機構という機関により,症状固定時に残った症状(後遺障害)について等級の認定を受けると,その等級に応じた請求が可能です。

請求の項目としては,慰謝料と,労働能力の喪失による逸失利益があり,いずれも,等級ごとに金額や率の定めがあります。

まず,後遺障害による慰謝料は,金額が等級ごとに定められております。

また,逸失利益については,労働能力喪失率が等級ごとに定められており,原則としてこれらに従って算出することとなります。逸失利益の基礎額については,原則として事故前年度の収入を基準とし,原則として事故時から67歳までの収入から中間利息を控除した年数(ライプニッツ係数と言います)を乗じ,等級ごとの労働能力の喪失率を乗じて算出されます。

また,認定された後遺障害等級に納得がいかないという場合には,機構に対して異議申立てを行うこともできます。最初の申請段階で,加害者側保険会社に任せることもできますが,被害者側で申請することもできます(前者を「事前認定」,後者を「被害者請求」と呼んでおります)。

異議申立てともなるとやはり専門的知識が必要となってきますので,専門家へのご相談をお勧めします。

その他

そのほかに,入通院にかかった交通費,入通院の際に付添人が必要であった場合にはその方の交通費や手間賃,また,入院中にかかった実費の一部なども請求可能です。

弁護士の費用を相手に請求できるのかというご質問をよく受けますが,一部損害として認められるのですが,認定されるのは訴訟で判決となった場合であり,交渉段階では応じないことが多いと思われます。

なお,死亡事故の場合にはそのほかに生じてくる損害項目もありますが,それについてはまた別稿によることといたします。

まとめ

以上のように,交通事故と一口に言っても,さまざまな損害項目が生じ,細かく見ていかなければ,本来請求できるかもしれない項目も見落としがちです。

加害者側の保険会社に任せていると,本来請求すべき項目が提示されていないことも考えられます。

トラバス所属の専門家は運輸業界とのかかわりが深く,交通事故に関しても見識を有しておりますので,ぜひご相談頂けますと幸いです。

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