事故を起こしたときは、車が大きい方が不利になる、車が大きいから悪くなるのは仕方ない・・・・・・そのような発言をよく運輸業関係者から耳にします。
しかし、本当にそうでしょうか。
上記のような思い込みから、運輸業の方の中には、事故の一次対応や交渉に際して、過度に委縮してしまっている方も多いです。
たしかに、大型車両は一たび事故を起こせば悲惨な損害をもたらすことも多く、また、死角も多いため一般論としては事故を起こしやすい側面も否定できません。ですから、そのような気持ちで、気を引き締めて運転して頂くべきことは言うまでもありません。
とはいえ、過失割合というものは、本来、具体的状況に応じて決すべきものですから、大型車両であるからといって、それだけで一概に過失割合が不利に修正するなどとはいえないはずです。
さて、交通事故の過失割合に関しては、別冊判例タイムズ№38という書籍が出版されており、これは東京地裁の研究部が編纂したものですので、きわめて権威のあるものです。現在は第5版が最新版となっており、実際に、実務も交渉から訴訟までこれによって判断されております。
この中で、次のような記載があります。
「全訂4版までは、いくつかの基準において、大型車による修正をすることとしていた。しかし、大型車による修正のあるものとないものとがあり、必ずしも統一がとれていなかったことや、大型車であることと事故発生の危険性に関連がない場合にまで大型車であることのみを理由に一律に修正要素とするのは妥当ではないと考えられることから、本書では、各基準の修正要素から大型車による修正を削除した。もっとも、大型車であることによる修正を否定するものではなく、大型車であることが事故発生の危険性を高くしたと考えられる事故類型においては、大型車であることにより5%程度の修正をするのが相当である。例えば、交差点に直進進入した車両が交差道路から直進進入した大型車の側面後方に衝突した事故、交差点に直進進入した車両が対向車線から右折する大型車の側面後方に衝突した事故などである。」(第5版46ページ)
このように、たしかに以前は、大型車両であることが一律の加重要素として扱われていた時期もあったようですが、現在ではそのような運用になっていないことがわかります。
他方で、個別具体的状況のもとに、大型車両特有の原因で事故の危険が拡大したと認められる場合には、加重要素として扱われる余地を残しております。
以上のとおり、大型車両による事故は、反省すべき点は反省しつつも、過失割合において必要以上に委縮せずに事故処理に当たることが、肝要かと思われます。
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平成25年1月に弁護士登録し、以後、横浜市内の法律事務所で約7年間勤務。令和元年の末に川崎武蔵小杉法律事務所を開業し、同所代表となる。
交通事故関連事件を多く手掛けてきたことから、運輸業のお客様と関わる機会に恵まれ、運輸業界の実態については他の弁護士以上に把握していると自負している。また、運輸業の方からは、交通事故以外にも労務相談、契約に関するご相談、さらには、新規事業に関するリーガルチェックにも力を入れている。
その他、セミナー講師や原稿執筆の経験多数。