運転者の健康状態が運転中に急速に悪化することにより発生する交通事故(健康起因事故)は一度発生すると重大な事故につながることが多いため、社会的に大きな注目を集めています。
健康起因事故の疾病例の内訳(平成24~28年 国土交通省)
- 過去5年間で健康起因事故を起こした運転者1046人のうち脳疾患が16%、心臓疾患が14%を占める。
- うち、死亡した運転者196人の疾病別内訳は、心臓疾患が50%、脳疾患が15%を占める。
平成30年6月に事業用自動車の運転者が疾病により運転を継続できなくなる事故が相次いだため、国土交通省は各関係団体に対し「健康起因事故の防止に向けた健康管理の実施について」の通達を発出しました。
法令に基づく運転者の健康診断の実施を始めとした運転者に対する健康管理を適切に行うため、手引書・マニュアル等を策定し、運転者の健康起因事故防止のための取組を行うことを推奨しています。
- 「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」(平成22年7月策定、平成26年4月改訂)
- 「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」(平成15年6月策定、平成19年6月及び平成27年8月改訂)
- 「自動車運送事業者における脳血管疾患対策ガイドライン」(平成30年2月策定)
健康起因事故発生のメカニズム
- 運転者の疾病(糖尿病、脳血管疾患、心血管疾患、呼吸系疾患、消化器系疾患、睡眠障害等)
- 運転に影響する症状の発生(治療薬誤用、激痛、急性血圧低下、麻痺、意識水準低下等)
- 運転行動の異常(視覚困難、行動の消失、運転操作継続困難、認知能力操作能力低下等)
- 事故発生
健康起因事故防止のための取組
1.運転者の健康状態の把握
- 定期健康診断による疾病の把握
- 一定の病気等に係る外見上の前兆や自覚症状等による疾病の把握
- 脳・心臓・消化器系疾患や睡眠障害等の主要疾病に関するスクリーニング検査(推奨)
上記において異常所見等がある場合には、医師の診断や面接指導、必要に応じて所見に応じた検査を受診させ医師の意見を聴取。
スクリーニング検査の内容
人間ドック・脳ドック(MRIとMRAを用いた簡易検査あり)・睡眠時無呼吸症候群(SAS)スクリーニング検査・心疾患に係る検査(ホルター心電図検査等)
2.就業上の措置の決定
- 医師の意見を踏まえ就業上の措置の決定
- 医師等による改善指導
3.判断目安に基づく乗務前・中の判断・対処
健康起因事故を防止するためには、健康起因事故発生のメカニズムを理解した上で、事故発生までの流れを断ち切る対策に取組むことが重要です。
公共の道路上で運転業務を行う運転者の健康状態の維持と、そのための日頃の健康管理の徹底は、輸送の安全運行を確保するうえで重要であり、運送事業者の重大な責務でもあります。
運送事業者は運転者に対して継続的かつ計画的に指導及び監督を行い、法令にもとづき運転者が遵守すべき知識や、運行の安全を確保するために必要な知識及び技能の習得を通して、運転者を育成しなければなりません。
また運転者が体調の悪い場合に申告できる環境や、運行管理者と運転者のコミュニケーションから信頼関係を構築するなど日頃の取組みに努めることも大切です。
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トラバス代表理事。行政書士開業後、個人事務所時代から一貫して、運輸と観光分野に関する専門家として、数多くのトラック運送会社、貸切バス事業者、倉庫業者の許認可法務に関与してきた経験を持つ。
現在も行政書士法人シグマの代表行政書士として、行政書士法人を経営しながら、運輸業と観光法務の実務家として活動中。
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)賛助会員(認定アドバイザー)