こんにちは。社会保険労務士の志田です。
今回は採用活動にお悩みの運送会社様に、新しく創設される制度についてご紹介したいと思います。
採用困難な時代の背景にあるもの
「なかなか採用できない」
いま多くの運送会社が抱えている問題です。
その背景にあるのは、労働力人口(15歳から64歳の働くことができる人口数)が減少していること、さらに今後ますます減少していくこと、そして求人数が増加していること。
その結果、2019年8月時点でのドライバーの有効求人倍率は3倍を超えています。
これは「300人分のドライバー職を募集」しているが、「ドライバーの仕事を探しているのは100人しかいない」という状況です。
その100人の求職者から自社を選んでもらえなければ、「なかなか採用できない」という状況が続くわけです。
さらに求職者の情報力は10年前に比べて、各段に上がっています。
スマホが普及したことにより、だれでも簡単に企業情報を調べることができるようになりました。
求職者はできるだけ多くの企業から最適な職場を選びたいと考えているのです。
つまり、「なかなか採用できない」という状況から脱却するためには、「求職者から選ばれる運送会社」にならなければなりません。
では、どうすれば「求職者から選ばれる運送会社」となれるのか、またドライバー職を希望する求職者は「なにを基準」にして運送会社を選ぶのでしょうか。
働きやすい職場認証制度
そのひとつの基準が、「働きやすい職場認証制度」ではないかと考えております。
ドライバーとしての就職を希望する求職者が就職先を選ぶ際や、荷主等が取引先を選ぶ際に参考にできる自動車運送事業者(トラック・バス・タクシー事業者)の労働条件や労働環境に関する認証制度を国土交通省が創設しました。
こちらの認証制度は国土交通省が「認証実施団体」として選定した一般財団法人日本海事協会を通して実施することとなりました。
申請受付は2020年9月16日から12月15日までとなります。
正式名称は、運転者職場環境良好度認証制度。
「一つ星」「二つ星」「三つ星」
認証項目を設け、達成状況に応じて、「一つ星」「二つ星」「三つ星」の3段階で認証されます。
「二つ星」と「三つ星」は、「一つ星」取得の翌年度から申請可能となります。
つまり、とても優良な企業であってもミシュランガイドの格付けのように、いきなり「三つ星」から取得することはできません。
すべての運送会社が、まずは「一つ星」の取得から目指すことになります。
働きやすい職場認証制度の認証項目は、以下の分野で認証項目と参考項目があります。
認証項目は「一つ星」の合否を判定するもの、参考項目は将来の「二つ星」「三つ星」の取得に向けた目安となるものです。
- 法令順守等
- 労働時間・休日
- 心身の健康
- 安心安定
- 多様な人材の確保・育成
「一つ星」取得のための認証項目は、全部で25項目(タクシーは27項目)あり、
「法令違反をしていない」「行政処分を受けていない」といったところがメインとなります。
この法令には当然労働基準法も含まれるため、「労働時間の管理」、「残業代の正しい計算と支給」「安全・健康管理」といった運送会社にとっては、少しハードルの高い内容も入っております。
認証を取得するには、認証項目のすべてを満たす必要があります。
認証項目には
- 項目ごとに満たす必要があるもの
- グループ内の複数の小項目のうち、達成できている小項目の合計点が基準点を満たしていれば項目として満たされるもの
の2種類あります。
分かりやすく、この記事では前者を必須項目、後者を点数項目と呼びましょう。
申請を検討されている企業様は、まず認証項目を確認し、「できている」「できていない」項目を振り分けてみましょう。
「できていない」もののうち、必須項目があれば「一つ星」は取得できません。
実施に向けて取り組みましょう。
「できていない」もののうち、点数項目があれば、ほかの点数項目で基準点をクリアしているか確認し、点数が足りなければこちらも実施に向けて取り組む必要があります。
提出書類
申請時に提出する書類は
- 就業規則の写し
- 36協定の写し
- 労働条件通知書の写し
- 安全委員会、衛生委員会の構成員一覧、議事録の写し
- 定期健康診断結果報告書の写し
- 行政処分の違反点数を受けている事業者は、違反に対する是正措置が適切に実施されていることが確認できる書類
となります。
これらの書類で不足しているものがあれば、作成、届出が必要になります。申請を検討されている事業所様は、早めに取り掛かりましょう。
働きやすい職場認証制度取得のメリット
働きやすい職場認証制度を取得する最大にメリットは、第三者である認証実施団体が自社の働きやすさや取組状況を求職者に対し、中立的な立場で、客観的評価として示してくれることです。
つまり自社で「働きやすい職場ですよ」とアピールするよりも、第三者が「働きやすい企業です」と認めてくれるので、求職者にとっても安心して応募できる企業とみられるでしょう。
さらに認証を受けたインセンティブ措置として、求人票への記載も検討されているようです。
採用において、大きなアドバンテージを得ることは間違いないと思います。
「なかなか採用できない」とお悩みの運送会社様は、働きやすい職場認証制度の取得を目指してみてはいかがでしょう。
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トラバス理事。都内大手社会保険労務士法人で企業の労務相談、就業規則・各種規定の作成、指導、実務書の監修、労働保険・社会保険手続き、給与計算業務に携わる。その後、独立開業。
現在は、特に中小企業のための「リスクヘッジ型就業規則」コンサルティングと「社内のルール作り」「長時間労働対策」に力を入れている。また「企業はヒト」、「人材の定着には組織風土の活性化は欠かせない」という考えからユニークな企業内研修も実施。併せて民間企業、役所、商工会議所、法人会において労務管理セミナーの講師も務めている。