ホワイト経営認証の副次的側面
今年から施行されると言われております、運転者職場環境良好度認証制度、いわゆる「ホワイト経営認証」について、弁護士の目線から見てみますと、本来の効用だけでなく、副次的な側面も浮かんできます。すなわち、企業を営む上で、ある程度不可避ともいえる労働問題、ひいては労働審判や訴訟への対策の一つ、という側面です。
「ブラック企業」というレッテル貼りへの対策
昨今、労働者や世間からいわゆる「ブラック企業」などと揶揄を受けてしまう(客観的にそうであるかどうかは別にしても、そのように指を差されてしまう)企業様も多く、ひいては、実際に労働審判や訴訟に発展していることも多いです。
現に、労働審判の申立て件数は、例年3000件以上を数えています。さて、このような手続の申立てをする側からすると、自分が会社からいかにひどい扱いを受けてきたかということを申立書に書き立て、いわば、「ブラック企業のレッテル」ありきで、手続を仕掛けてくるわけです。
そして、裁判所も、これを全て鵜呑みにするわけではないとはいえ、とりわけ労働審判の場合、やはり労働者側の味方という雰囲気は否めません。
また、印象論としても、一事が万事といった明確な立証を欠く論理でも心証が傾いてしまうということも否定できません。
実際、労働紛争では、そのような、本論とは必ずしも関係のない単なる悪印象付けのような主張立証を、ひとつの訴訟戦略として労働者側が行ってくることもまれではないのです。
そのような主張が、まったく効果がないかと言えばそうでもないのが怖いところです。
さらに、世間の目という点を考えても、訴訟社会もまだ成熟しておらず、まだまだ、訴訟を起こされるというのは何かあるのではないかという疑いを持って見る方が多い世の中です。
そのような主張に対して、「うちはホワイト企業だ」ということを客観的に示すことは、いままで指標もなく、容易なことではありませんでした。
「ホワイト企業」のお墨付き
この点、そもそもホワイト経営認証制度においては、認証を受けるための項目として、労働関係の項目が多くを占めており、少なくとも労働問題が多発しているような土壌があっては認定を受けることが容易でないことが明らかです。
そうなりますと、少なくとも抽象的レベルでは、労務面において問題がない企業である、という主張を胸を張って行うことができます。
これは、いわば、「ブラックのレッテル」とは逆に、「ホワイトのお墨付き」ありきで、労働審判等の手続を進めていけることになりうるわけで、企業側を代理する弁護士の目から見れば、ぜひ備えておいてほしい、自衛のための武器といえます。
たしかに、現状では、認証基準自体にグレーな側面があったり、認知度が低かったりして、まだまだアピール力は弱いかもしれません。
しかし、今後さらにホワイト経営認証の制度が実効的に実施され、社会的に認知され、浸透していけば、裁判所としても、それを取得している企業は、経営に問題のない企業であるとの推認すらなしうる、一つの有力な指標となっていくことが十分に予想されるのです。
むろん、そうした認証のための各項目を満たすために日々努力することで、内実としてもホワイト企業となっていくことと思われます。
そうなれば、結果として生じてしまった労働紛争があったとしても、認証を受けていないのとは比較にならないくらいに有利な対処が可能となることは言うまでもありません。
ホワイト経営認証は訴訟等の有事への対策にも
ホワイト経営認証の制度は、「ホワイト経営企業」であることを世間的に公認されるという本来の側面や、取引先からお仕事を頂く上でも、あるいは採用面での有利性といった側面でも、もちろん非常に意義のある制度です。
しかし、さらには訴訟等の有事への対策の一つにもなり得るという点を、ここでは強調しておきたいと思います。
ぜひ皆様も、このようなホワイト経営認証に注目して頂き、さらには、できる限り星の多い認証を受けられるように努力されることをお勧めします。
トラバスもホワイト経営認証制度については研究の途上ではありますが、今後も最新の情報・ノウハウを取り入れ、経営者様を全力でサポートさせて頂きたいと考えております。
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平成25年1月に弁護士登録し、以後、横浜市内の法律事務所で約7年間勤務。令和元年の末に川崎武蔵小杉法律事務所を開業し、同所代表となる。
交通事故関連事件を多く手掛けてきたことから、運輸業のお客様と関わる機会に恵まれ、運輸業界の実態については他の弁護士以上に把握していると自負している。また、運輸業の方からは、交通事故以外にも労務相談、契約に関するご相談、さらには、新規事業に関するリーガルチェックにも力を入れている。
その他、セミナー講師や原稿執筆の経験多数。