社会保険労務士・行政書士の内藤です。
今回は助成金のお話をしましょう。
ドライバーの職業病といえば、腰痛ですね。
それもそのはず、腰痛は業務上疾病、いわゆる職業病と呼ばれるもののなかで、6割を占める最もメジャーな症状です。
特に運輸交通業での職業病では、実に8割を占めるほどですから、うなずけます。
腰痛を知らない方は少数派かと思いますが、腰痛検診や腰痛対策の助成金のことは知らない事業主さん、多いのではないかと思います。
「うちもドライバーに腰痛持ちが多くて困ってるよ」という声はよく耳にするのですが、これだという有効策はあまりないようです。
さて、その腰痛。実際に労災として認められるのでしょうか?
答えは、Yesです。
こうなってきますと、もう他人事ではありませんね。
厚生労働省では、腰痛の労災に関する認定基準なるものを定めています。
この認定基準には次の2つの区分があります。
災害性の原因による腰痛
まず、一つ目の区分です。
「災害性の原因による腰痛」
これは負傷などによる腰痛で1、2の要件を両方満たすものです。
- 腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること。
- 腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること
ちょっと難しいですね。眠くなってくるのは私だけでしょうか。具体例でお話しましょう。
1は、こういうことです。
重いものを運んでいる途中で転んだ場合や、重いものを二人で運んでいる最中に、一人の手が滑って荷物を落としてしまった場合のように、突然のアクシデントで急に強い力が腰にかかったことによる腰痛のことですね。
2の方も、わかりやすく言いますと、
持ち上げようとする荷物が自分の思ったよりも重すぎたり、逆に軽すぎたりする場合や、変な姿勢で重いものを持ち上げたりした場合のように、突然、腰に急な強い力が掛かることによる腰痛のことを言っています。
何となくイメージがわきましたでしょうか。
皆さんにも思い当たるふしはあるのでは。運搬あるあるですね。
災害性の原因によらない腰痛
さて、二つ目の区分はと言いますと
「災害性の原因によらない腰痛」です。
突発的な出来事が原因ではなく、重量物を取り扱う仕事など腰に過度の負担のかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるもの
うーん。何だか分かったような、分からないようなですね。
ちなみに、この二つ目の区分は、更に以下の2つに区分して判断されます。
区分1
次の業務に約3カ月以上従事したことによる筋肉疲労が原因となっている腰痛です。労災補償の対象となります。
- 約20Kg以上の重い物や重さが違う物を繰り返し中腰の姿勢で持ち上げたり運んだりする仕事(港湾荷役など)
- 毎日2~3時間、腰に不自然な姿勢でする仕事(例、配管工の柱上作業など)
- 立ったり歩いたりできない状態で、長時間、同じ姿勢でする仕事(例、長距離トラックの運転など
- 腰に大きな振動を受ける作業を続けて行う仕事(例、車両系建設用機械の運転業務
こうして具体的な例でみていくと、なるほどという感じですね。
区分2
重い荷物を扱う仕事に長期間(約10年以上)続けて仕事に従事したことによって骨に変化が起き、そのことが原因となった腰痛も、労災補償の対象となります。具体的には次のような状況です。
- 約30㎏以上の重い物を、労働時間の約3分の1以上の間、扱う仕事。9時間の仕事だとすれば、3時間くらい重い物(30㎏くらい)を扱うということですね。
- 約20㎏以上の重い物を、労働時間の約半分以上の間、扱う仕事。8時間の仕事だとすれば、4時間くらい重い荷物(20㎏くらい)を扱うということです。
具体的な取り組みと助成金
厚労省では、腰痛を労災として認定するため、このような基準を定めています。
さて、腰痛に関する労災認定基準が分かってきましたが、会社では、具体的にどのようなことに取組めばよいのでしょう。
そこで、お勧めしたいのが
腰痛健診
です。主に産業医などがいる病院で行っています。
この腰痛健診を会社の制度として導入を検討してはいかがでしょう。
実は、この制度導入で厚労省から助成金が出ます。金額は1法人あたり10万円です。
何だ少なすぎる、話にならん。もういい。
と思った事業主さん。ちょっと待ってください。
この助成金には続きがあります。
この助成金は職場定着支援助成金という名のとおり、職場に従業員を定着させることによって受給できる助成金なのです。
具体例
具体的には、腰痛健診を導入する計画期間を3カ月と設定したとします。
その3ヵ月の前後の1年間を比較しての離職率(職場を辞めた方の割合)が一定の目標値に達したときに57万円支給されます。
先ほどの10万円と併せて全部で67万円ですね。
従業員の腰痛の悪化を防ぐという、いわば福利厚生を導入し、かつ従業員の職場定着も達成し、そして会社には助成金が。。。
検討の価値はありそうです。
しかも、腰痛健診は全員ではなく希望者のみでも結構です。また、正社員が一人の会社でも導入できます。
ちなみに腰痛健診の費用ですが、病院によっても異なりますが、3,000円~5,000円のところが多いようです。
比較的手ごろな価格ですね。
さて、申請方法ですが、大まかに説明いたしますと
- 計画届を労働局に提出し、その計画の認定を受ける。
- 計画通りに制度を導入する。具体的には就業規則の制定、届出など。
- 希望者に腰痛健診を受けさせる。
- 計画期間の終了後、1回目の助成金を申請する。
- 離職率の達成後2回目の助成金を申請する。
- 腰痛持ちが減り、会社の福利厚生が充実し、会社は大事な従業員を失うことなく、助成金を手にする。
という流れです。
6は私の想像も若干入っていますが。。。
是非、ご一考くださいませ。
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警視庁巡査を拝命してから警視庁警部補を依願退職在職までの約17年間の内、約10年を本部刑事(捜査第三課)、約5年を所轄署刑事として従事。
この間、空き巣や金庫破りなどの建物に侵入して敢行するいわゆるプロの泥棒を数十人検挙。
警部補で警視庁本部に所属した際は、自ら捜査本部を陣頭指揮し、窃盗犯の割り出しから行動確認、証拠収集、令状請求、逮捕、取調べにあたり、侵入窃盗犯罪に精通するに至る。
現在は、社労士業務、行政書士業務のほか、併設法人合同会社Place C Nineの代表として防犯コンサルティングを実施。
危機管理を含んだ総合的支援をモットーとしており、即時、ベストな提案と対応ができる頼れる専門家として活動している。