行政書士の阪本です。
令和2年4月24日、国土交通省は、トラック運送業向けの標準的な運賃を告示しました。
この標準的な運賃の告示制度は、令和5年度末まで、つまり令和6年3月31日までの時限措置ではありますが、トラック運送事業者が、法令を順守して持続的に経営をしていくための参考となる運賃を示すことを目的として設けられたものです。
生憎、標準的な運賃の告示が行われたのは、新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言の最中でした。コロナ禍中にスタートした制度のため、世間一般に知れ渡っていません。
この告示のニュースは、本来ならば、トラック運送業界よりも荷主企業に一番届いて欲しい制度です。
しかしながら、コロナ関連のニュースの陰に隠れてしまい、国土交通省のメールマガジンや運送業界紙面でしか話題になりませんでした。
そこで、標準的な運賃が告示されてから、私が許認可法務のお手伝いをしているトラック運送事業者様様から寄せられたご質問にお答えしていきたいと思います。
標準的な運賃の金額と設定はどのようになっているのか?
運賃表は、貸切(チャーター)を前提として、距離制と時間制の二本立てとなっています。
人件費や物価等の地域差を考慮して、地方運輸局ブロック単位で設定されています。平成11年の運賃表では上限・下限が設定されていましたが、今回告示された標準運賃表では上限・下限の幅は設定せずに、統一的な運賃が設定されています。
車型は、ドライバン型の車両を基本として、小型車(2トン)、中型車(4トン)、大型車(10トン)、トレーラー(20トン)の4つの車種別の料金体系となっています。
車種 | 説明 |
小型車(2トンクラス) | 最大積載量2トン未満の車両 |
中型車(4トンクラス) | 最大積載量2トン以上かつ車両総重量11トン未満の車両 |
大型車(10トンクラス) | 中型車(4トンクラス)を超える車両(但し、トレーラー(20トンクラス)を除く) |
トレーラー(20トンクラス) | 牽引車と被牽引車とを連結した車両であって最大積載量が20トン前後のもの |
冷凍・冷蔵車の割増率は2割と設定されました。
深夜早朝割増は、午後10時から午前5時までの運送した距離に対して2割と設定されています。
最後に、トラック運送事業者のなかでは設定する際に悩まれることが多い待機時間料は、30分を超える場合において30分毎に発生する金額を、4つの車種別に設定されました。
車種 | 30分を超える場合においての30分ごとに発生する金額 |
小型車(2トンクラス) | 1,670円 |
中型車(4トンクラス) | 1,750円 |
大型車(10トンクラス) | 1,870円 |
トレーラー(20トンクラス) | 2,220円 |
国交省が標準的な運賃を告示した理由は?
一般的にトラック運送事業者は、荷主に対する交渉力が弱く、必要な運行コストに見合った対価を収受しにくい環境が続いています。
さらに、ドライバーの高齢化が年々深刻化していることに加え、令和6年度から年間960時間の時間外労働の限度時間が設定される等を踏まえ、運転者の労働条件を改善し、トラック運送業者が法令を遵守しながら、社会インフラとしての物流機能を持続的に維持するための参考となる運賃を示すことが効果的であるとの理由により標準的な運賃が告示されました。
この運賃は誰が、どういう根拠で計算したの?
標準的な運賃は、国土交通省が、全国のトラック運送事業者の原価データを集計し運賃額を計算したものです。
国土交通省が計算を行った際、以下の考え方に基づいて行われました。
元請け・下請けの関係
いわゆる元請事業者の傭車費用等については考慮せず、 実運送事業にかかる原価等を基準に運賃を算出
車両の減価償却費
法定耐用年数とリース期間・融資期間等の実態を加味し、償却年数5年で算出
人件費
全産業平均の時間当たりの単価を基準
一般管理費等の間接費
トラック運送事業の平均値を使用
借入金利息
営業外費用として適正な原価に参入
帰り荷の取扱い
実車率50%の前提で運行コストを算出
適正な利潤
営業外収入を除く経常利益として一定水準確保できるよう、自己資本に対する適正な利潤額を算定
標準的な運賃をどのように活用すればよいの?
標準的な運賃が告示されたからといって、この運賃表が全てのトラック運送事業者に強制的に適用されるわけではありません。
トラック運賃は、それぞれのトラック運送事業者の任意に設定できるというルールは変わりません。
標準的な運賃は、トラック運送事業者が荷主と運賃交渉する際の『目標としての運賃』として活用することを想定して設定されました。
とはいえ、荷主側がこの標準的な運賃を知っていないと仕方がないため、トラック協会は、荷主への周知する活動を進めています。例えば、東京都トラック協会では、荷主企業への依頼文を発送するために、送付先の企業情報をHP上で募集しています。
標準的な運賃の告示に係る荷主企業への依頼文発送用企業リスト募集
行政処分との関係は?
標準的な運賃は、トラック運送事業者が法令を遵守して持続的に事業を運営する際の参考となる運賃のため、標準的な運賃と異なる運賃を収受したことのみをもって罰則が科されるなどのペナルティを伴うものではありません。
しかしながら、トラック運送事業者が健康診断を受診させなかったり、社会保険に加入しなかったり、車庫飛ばしを行うなどといった、不当に原価を抑えて事業を行うことにより法令違反を行った場合は、行政処分の対象になります。
また、荷主が、一方的に設定した金額より低い運賃で運送委託等を行うことにより、下請法・独占禁止法に違反する場合には、荷主がこれらの法律に基づく処分の対象となります。
さらに、トラック運送事業者が過労運転・過積載運行を行った場合、その原因が荷主の不当に安い運賃の支払いが原因となる恐れがある場合には、荷主勧告制度により、荷主名が公表される場合があります。
最後に
とはいえ、新型コロナウイルスの影響で、荷動きが急速に悪化しています。
運賃交渉よりも荷物の確保を優先する動きがあるのも事実です。今が運賃交渉のタイミングではないと考えられる方もいらっしゃるのも事実です。
特に、新型コロナウイルスの影響で、製造業の荷主は非常に苦しい状況になっています。標準的な運賃を使って今すぐに運賃交渉を行わないトラック運送事業者は、自社の運賃が標準的な運賃と差異があるのかだけでも計算をして把握しておきましょう。
そして、現在の運賃料金の根拠はありますか?荷主に対して、原価計算を行わずになんとなくで、運賃料金を提示していませんか?
運送原価を知ることも運送事業を経営する上でとても大切なことです。
この数字がウィズコロナ/ポストコロナ時代の運送事業経営に役立つと考えます。
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トラバス代表理事。行政書士開業後、個人事務所時代から一貫して、運輸と観光分野に関する専門家として、数多くのトラック運送会社、貸切バス事業者、倉庫業者の許認可法務に関与してきた経験を持つ。
現在も行政書士法人シグマの代表行政書士として、行政書士法人を経営しながら、運輸業と観光法務の実務家として活動中。
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)賛助会員(認定アドバイザー)